
動脈硬化
動脈硬化は「気づかぬうちに進行してしまう」という性質をもつだけに、生活習慣の改善や定期検査による早期発見が非常に重要です。足の冷えや痛み、しびれといった末梢の症状があれば、「まだ大したことはない」と放置せず、できるだけ早めに医療機関を受診することが重症化を防ぐポイントとなります。心臓や脳の重篤な疾患だけでなく、足の血流障害のリスクも見逃さず、継続的に血管の健康を守っていきましょう。
動脈硬化の定義
- 動脈壁の硬化・肥厚・狭窄
- 血液循環不良による組織への影響
- 長期間かけて進行し、初期は無症状
「動脈硬化」とは、文字どおり動脈が“硬くなる”状態を指しますが、実際には動脈の内膜に脂質やコレステロールが沈着し、血管が狭く、もろく、厚くなる病態全般を指します。動脈は心臓から血液を送り出す重要な血管であり、この動脈の内腔が狭くなると、全身の臓器・組織へ十分な酸素や栄養分が行き届かなくなります。
動脈硬化は、進行が非常にゆっくりなために初期段階では自覚症状がほとんどありません。そのため、動脈硬化がある程度進行してから発見されることが多く、症状が出現する頃には合併症(心疾患や脳血管障害、末梢動脈疾患など)が顕在化しているケースも少なくありません。こうした遅れてやってくる合併症こそが動脈硬化の最大の問題点であり、早期発見・早期対策の重要性が強調されるゆえんです。
発症メカニズム
- 粥状硬化(アテローム硬化)による血管内壁への脂質蓄積
- 炎症反応の慢性化
- 血管内皮細胞の機能低下・損傷
動脈硬化の代表的な病変の1つに、「粥状(じゅくじょう)硬化(アテローム硬化とも呼ばれる)」があります。これは、血管の内膜にコレステロールを主体とする脂質や炎症細胞、カルシウムなどが蓄積してプラーク(塊)を形成する現象を指します。プラークが大きくなると血管内腔が狭くなり、血流量が減少します。
さらに問題となるのは、プラークがなんらかの拍子に破裂・破綻した場合です。これにより血管内に急激な血栓(血のかたまり)が形成され、血管が詰まってしまうことがあります。心臓の冠動脈で起これば心筋梗塞、脳の動脈で起これば脳梗塞、足の動脈であれば下肢の虚血や壊疽へと進む可能性があります。
こうした粥状硬化の進行には、慢性的な炎症も深くかかわっています。高血糖状態が続いたり、高血圧によって血管壁に大きな負荷がかかったり、喫煙によって血管を傷つける物質が入ったりすることで、血管内皮細胞が損傷し、修復過程の中でさらに炎症が持続して悪循環に陥るのです。メカニズムとしては複雑ですが、いずれも生活習慣病や喫煙などの環境要因によって悪化するため、日々のケアが非常に大切といえます。
動脈硬化の主なリスク要因
- 高血圧
- 脂質異常症(高LDLコレステロール・低HDLコレステロールなど)
- 糖尿病
- 喫煙
- 肥満・メタボリックシンドローム
- 運動不足
- 加齢・遺伝的要因
動脈硬化を引き起こしやすい要因の多くは、生活習慣病と直結しています。特に高血圧や脂質異常症(LDLコレステロールの増加、HDLコレステロールの減少)、糖尿病などは“サイレントキラー”とも呼ばれ、症状がないまま長期間にわたって血管障害を引き起こす原因となります。
また、喫煙は血管内皮を直接傷つけ、血液をドロドロにして血栓をできやすくする強力なリスク要因です。肥満やメタボリックシンドロームにおいては、内臓脂肪が多いほどインスリン抵抗性が高まり、糖尿病や脂質異常症を悪化させる傾向があります。運動不足はエネルギー消費が少なくなるだけでなく、血管を柔軟に保つための刺激が不足する点でも問題となります。
加齢は避けられない要因ですが、健康的な生活習慣を継続することでリスクを大幅に下げることが可能です。血縁者に動脈硬化性疾患の多い家系では、さらに注意を払う必要があります。
主な症状・合併症
- 無症状のまま進行するケースが多い
- 末梢動脈疾患(PAD)による足の冷感・しびれ・潰瘍
- 心疾患(狭心症・心筋梗塞)
- 脳血管疾患(脳梗塞・一過性脳虚血発作:TIA)
- 重度の場合は壊疽や切断リスクも
動脈硬化は長いあいだ自覚症状を伴わず進行するため、ある日突然、重大な疾患を起こしてはじめて気づくことがあります。例えば、心臓の冠動脈に動脈硬化が進行すれば、狭心症や心筋梗塞のリスクが高まります。脳の動脈が狭窄または詰まれば脳梗塞、あるいはその前触れとして一過性脳虚血発作(TIA)が起こる可能性があります。
また、足の動脈硬化が進行する末梢動脈疾患(PAD)では、歩き出して少しすると足に痛みが出て、休むと楽になるという「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」が典型症状とされています。さらに血流が非常に悪化すると、足先の色が黒ずんだり傷が治りにくくなったりして、最悪のケースでは壊疽(えそ)によって切断に至る可能性もあるため、足の違和感は見逃さないことが大切です。
診断方法
- 血液検査(脂質、血糖、HbA1cなど)
- 血圧測定(上腕だけでなく足関節での測定も)
- 画像検査(エコー、CT、MRI、血管造影など)
- 脈波測定(ABI:足関節上腕血圧比 など)
動脈硬化のリスクを把握するためには、まず血液検査でLDLコレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、血糖値、HbA1cなどを確認します。これらの値が高血圧や脂質異常症、糖尿病などの診断指標になります。
血圧の測定も、健康診断や家庭測定で分かりやすい手段です。腕で測った血圧だけでなく、足関節(足首)でも測定して比較することで、下肢への血流障害の可能性を評価できます。ABI(足関節上腕血圧比)という指標では、一般的に値が低いほど動脈の狭窄が疑われます。
さらに詳しく動脈硬化の有無や程度を確認するには、超音波検査(エコー)で血管壁の厚さや血流の途絶をチェックしたり、CTやMRIなどの画像検査で血管の狭窄部位や硬化の程度を視覚的に把握したりする方法があります。重症例や血管内治療を検討する際には、血管造影検査で血管内部を直接造影して詳細を調べることも行われます。
治療法
- 生活習慣の修正(食事・運動・禁煙)
- 薬物療法(降圧薬・脂質異常症治療薬・抗血小板薬など)
- 血管内治療(カテーテル治療、ステント留置)
- 外科的治療(バイパス手術など)
動脈硬化の治療は「生活習慣の修正」がまず第一であり、これは最も基本的かつ重要なステップとなります。具体的には、喫煙をしている場合は禁煙、バランスのよい食事を心がける、過度なアルコール摂取を控える、塩分の過剰摂取を避ける、適度な有酸素運動を生活に取り入れるなどが挙げられます。こうした生活習慣の改善は、動脈硬化だけでなく高血圧、糖尿病、脂質異常症などの進行を抑制する効果も期待できます。
必要に応じて、薬物療法が行われます。高血圧には降圧薬、脂質異常症にはスタチンなどのコレステロール合成阻害薬、血小板の凝集を抑える抗血小板薬(アスピリンなど)が代表的です。これらは血管保護や血管の内皮機能の維持、血栓予防などに寄与し、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈障害の発症・再発を防ぐことにつながります。
さらに動脈硬化が進行して血管が重度に狭窄している場合、カテーテル治療(血管内治療)やバイパス手術などの外科的処置が必要となることがあります。カテーテル治療では、狭くなった血管にステント(小さな金属製の網状チューブ)を留置して血流を改善させます。バイパス手術では、詰まった血管を迂回する新たな血流ルートを確保することで、重要臓器や末梢への血液供給を維持します。
予防・再発防止策
- 継続的な血圧・血液検査
- 禁煙・節酒
- 適度な運動・体重管理
- バランスの取れた食事(塩分・脂質の制限)
- ストレス管理・十分な休養
動脈硬化の予防・再発防止策として特に重要なのは、定期的に血圧や血液検査を受けることです。早期に高血圧や脂質異常症、糖尿病の兆候を捉え、適切な対策を取ることで、動脈硬化の進行を抑えることができます。
禁煙は言うまでもなく必須事項です。喫煙は血管を収縮させるだけでなく、血液を凝固させやすくし、血管内皮を傷つける物質を体内に取り込むことになるので、動脈硬化を急速に悪化させる最大要因の一つとされています。もし喫煙習慣がある場合は、禁煙外来やカウンセリングを活用してでも中止する価値が十分にあります。
運動面では、有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング、サイクリングなど)を週に数回、無理のない範囲で継続的に行うことが推奨されます。体重管理においては、肥満やメタボリックシンドロームを予防するだけでなく、血圧や血糖の安定にもつながり、動脈硬化の進行を抑えます。過度な塩分や脂質の摂取を避け、野菜・果物・魚などをバランスよく取り入れる食事は、長い目で見れば血管の健康に直結します。
また、ストレス管理や十分な睡眠、休養の確保も重要です。精神的ストレスが血管を収縮させたり、自律神経を乱して血圧を上昇させるという報告もあり、生活環境の改善も含めたトータルな健康管理が必要となります。
早期発見の重要性
- 動脈硬化は初期に自覚症状が乏しい
- 合併症が顕在化する前に検査・受診を
- 早期治療で重症化や合併症を回避
動脈硬化の厄介な点は、何度も述べてきた通り、初期段階では痛みや目立った自覚症状がほぼないまま進行するところにあります。そのため、「自分は健康だ」と思っていても、水面下で動脈硬化が進んでいる可能性があります。特に高血圧や糖尿病、脂質異常症の診断を受けている方は、動脈硬化が進行しているリスクが高いため、適切な治療と定期的な検査が欠かせません。
早期に異常を発見できれば、生活習慣の改善や薬物療法によって血管のダメージを最小限に食い止めることが期待できます。心筋梗塞や脳梗塞といった命にかかわる重大な発作を未然に防いだり、足の血行障害を進行させないうちに治療したりするには、定期的な健診と専門医への早めの受診が非常に有効です。なによりも、動脈硬化が引き起こす合併症を予防するためには、「疑わしい症状があれば早めに対処する」という姿勢が必要不可欠です。
まとめ
- 動脈硬化は初期症状が乏しく、生活習慣病と深い関連がある。
- 高血圧・脂質異常症・糖尿病・喫煙・肥満などがリスク要因となり、血管を長期にわたって傷つける。
- 足(末梢動脈)への影響として、冷えやしびれ、潰瘍、壊疽などが起こり得る。
- 特に下肢閉塞性動脈硬化症(PAD)は切断リスクもあり、歩行障害(間欠性跛行)に注意が必要。
- 心臓や脳など全身の血管疾患を引き起こす根本原因にもなる。
- 狭心症、心筋梗塞、脳梗塞といった重篤な疾患につながる恐れがある。
- 検査は血液検査や血圧測定(ABIを含む)、エコーや血管造影などで行う。
- 定期的な検査によってリスクを早期に把握し、必要に応じて治療を始めることが重要。
- 治療の基本は生活習慣の改善と薬物療法。
- 禁煙、食事制限、運動療法、降圧薬、脂質低下薬、抗血小板薬などが中心。
- 重症化した場合にはカテーテル治療やバイパス手術などの血管再生医療も検討される。
- 予防・再発防止には継続的な管理が不可欠。
- 血液検査や血圧測定の定期的実施、禁煙、適度な運動、バランスの良い食事、ストレス管理が必須。
- 早期発見が合併症を防ぐカギ。
- 無症状のうちに動脈硬化が進むため、健診や専門外来の受診で早めにリスクを把握し、対処する。
