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心房細動

心房細動

心房細動(しんぼうさいどう)は、不整脈の一種で、心臓の上の部屋(心房)が不規則に細かく震えてしまう状態のことです。これにより心拍(脈拍)が乱れやすくなり、動悸や息切れが起こる場合があります。大きな問題は、心房がきちんと収縮しないため血液がよどみやすくなり、血栓(血のかたまり)ができやすいことです。その血栓が脳へ飛ぶと脳梗塞を引き起こすリスクが高まります。治療としては、抗凝固薬(血栓を防ぐ薬)や抗不整脈薬を使うほか、カテーテルアブレーションという手術的な治療も行われます。生活習慣の改善(禁煙・節酒・適度な運動など)や、基礎疾患(高血圧や糖尿病など)の管理もとても大切です。

心房細動とは

  • 不整脈(正常ではない脈のリズム)の一種で、心臓上部の心房が細かく震えるように動いてしまう状態
  • 心電図上ではP波(ふつうは心房収縮を示す波)が消失し、不規則な細かい波(f波)が見られる
  • 心房細動になると心室への電気的刺激も不規則かつ速く伝わりやすく、脈拍が乱れやすい

心臓は「右心房・右心室・左心房・左心室」の4つの部屋に分かれています。通常、心房が規則正しく収縮し、その刺激が心室へ伝わることで、拍動はリズム正しく保たれています。

ところが「心房細動(atrial fibrillation)」が起きると、心房が1分間に300~600回ほどの極めて速いテンポで震えるようになります。その結果、脈拍は不規則になり、「動悸」を感じたり、息切れしたりする症状が出ることがあります。一方で全く症状を感じない方も一定数いるため、健康診断などで初めて見つかることも少なくありません。


心房細動が引き起こす主なリスク・合併症

  • 脳梗塞(特に脳塞栓症)のリスク増大
  • 心不全の悪化または発症リスク
  • 日常生活での動悸、息切れ、疲労感などのQOL(生活の質)の低下

心房細動の最大のリスクは「脳梗塞を引き起こす可能性が高まる」ことです。心房が規則正しく収縮せず「細動」している状態では、心臓の中(主に左心房の耳部〈左心耳〉)に血液が滞留しやすく、血液のよどみが血栓を形成しやすくします。もしこの血栓が血流に乗って脳の血管を詰まらせると、脳塞栓症というかたちで脳梗塞が生じ、後遺症が残る可能性があります。

さらに心拍が非常に速い・不規則な状態が長く続くと、心臓に過度の負担がかかり、心不全のリスクが高まります。また、日常的な動悸やめまい、疲労感などによって生活の質が低下する場合もあり、適切な管理が必要となります。


心房細動の原因・危険因子

  • 年齢:高齢になるほど発症率が上がる
  • 高血圧、心不全、弁膜症などの基礎心疾患
  • 糖尿病や慢性腎臓病、肥満、過度な飲酒、喫煙などの生活習慣
  • 甲状腺機能亢進症などの内分泌異常
  • 家族性の要因(まれだが遺伝的素因)

心房細動の主な原因としては「基礎心疾患」がある場合が多く、高血圧や虚血性心疾患、心不全などが背景に存在するケースが一般的です。とくに高齢者では加齢に伴う心房の変性や動脈硬化の進行が影響し、発症リスクが上昇します。また、糖尿病や慢性腎臓病、肥満、喫煙、過度な飲酒といった生活習慣病・習慣もリスクを高めます。甲状腺ホルモンの分泌亢進(バセドウ病など)によっても心房細動が誘発されることがあるため、内分泌異常の有無の確認も重要です。

さらに欧米などでは家族性の心房細動の報告もあり、日本でも遺伝的素因が認められる場合があります。とはいえ、遺伝性のケースは比較的まれで、多くは高血圧や生活習慣など複合的な要因から起こります。


症状の特徴

  • 動悸、脈の乱れ、息切れ、胸部の違和感
  • めまい、ふらつき、極度の倦怠感
  • 無症状のこともある(検診や別疾患の検査で発見されるケース)

心房細動が起こると「脈が速い」「脈がバラバラ」「脈が飛ぶ」といった状態になり、これを自覚して「胸がドキドキする」「脈が乱れている」と感じることがあります。しかし全員がはっきりとした自覚症状をもつわけではなく、まったく無症状のまま健康診断や別の病気で通院した際に偶然見つかる事例も多々あります。症状がなくても脳梗塞のリスクは変わらないため、発見が遅れるほど合併症が進行している危険性もある点が大きな問題です。


診断方法

  • 心電図(12誘導心電図)
  • 24時間ホルター心電図、イベントモニター
  • 心エコー検査(経胸壁心エコー、経食道心エコー、ストレス心エコー、ドプラーエコー)
  • 必要に応じてCTやMRI、血液検査(甲状腺機能など)

心房細動の診断の要は「心電図検査」です。通常の外来検査で行う12誘導心電図では、P波の消失と不規則なRR間隔、基線の細かいゆれ(f波)が認められれば、ほぼ心房細動と診断されます。ただし、発作性心房細動では検査時に正常リズムになっている可能性もあるため、症状が出やすいタイミングを狙ったり、長時間記録できる24時間ホルター心電図やイベントモニターを活用したりすることが大切です。


治療法

薬物治療

  • 抗不整脈薬:発作を抑えたり、発作の持続を短くする
  • 抗凝固薬:脳梗塞予防のために使用
  • レートコントロール薬:β遮断薬、カルシウム拮抗薬など

心房細動の薬物治療には大きく分けて「リズムコントロール」と「レートコントロール」の方針があります。リズムコントロールは、抗不整脈薬を用いてできるだけ正常な洞調律(どうちょうりつ)に近づけようとする戦略です。一方、レートコントロールは心房細動を完全に止めることはせず、β遮断薬やカルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼムなど)を使い、脈拍が速くなりすぎないよう管理する方針です。

どちらの方針でも重要となるのが「抗凝固薬」の使用です。心房細動は脳梗塞のリスクが大幅に高まるため、ビタミンK拮抗薬(ワルファリン)やDOAC(直接作用型経口抗凝固薬:ダビガトラン、リバーロキサバンなど)を用いて血栓形成を抑えることが推奨されています。

非薬物療法

  • カテーテルアブレーション:異常な電気伝導を高周波などで焼灼し、再発を抑制
  • ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)の植込み:特定の不整脈合併や徐脈(脈が遅い)のケースで検討

近年、心房細動の根治的な治療法として広がっているのが「カテーテルアブレーション」です。カテーテルを血管から心臓内に挿入し、心房細動の原因となる肺静脈周囲や異常興奮の局所を高周波エネルギーで焼灼(アブレート)して、心房細動の再発を予防しようとする手技です。

成功率は症例の背景によって異なりますが、約70~80%程度と報告されることもあります(※ただし個々の施設や患者背景によって大きく変動する可能性があります)。再発のリスクはゼロではありませんが、薬物療法だけよりも洞調律を長く保てる可能性が高まります。

ペースメーカーや植込み型除細動器は、重篤な徐脈がある場合や致死的な心室性不整脈が合併している場合などに限られた適応となります。心房細動単独では通常、ペースメーカー単独の植込みは行われませんが、アブレーション後の状況や併発する他の不整脈の状況によっては検討されることがあります。

生活習慣改善

  • 禁煙、節酒(大量飲酒の制限)
  • 適度な運動、食生活改善(塩分・糖分・脂質のコントロール)
  • 睡眠不足やストレスの軽減

心房細動そのものの治療に加え、再発や悪化を防ぐためには生活習慣の見直しが必須です。高血圧や糖尿病などを抱えている場合は、これらを管理することで心房細動の制御もしやすくなります。具体的には、禁煙や節酒、過度な塩分・糖分の摂取制限などの食事療法を行うことが重要です。肥満は心臓への負担を増やすため、適正体重の維持を目指します。

適度な有酸素運動は心肺機能を高め、血管内皮機能を改善するとされるため、医師の指導のもと実施すると良いでしょう。ストレスや睡眠不足も自律神経バランスを乱し、心房細動を誘発しやすくする可能性があるため、生活リズムの安定を図ることが大切です。


予防・再発防止

  • 抗凝固療法の継続で脳梗塞リスクを低減
  • 定期的な通院と心電図検査での経過観察
  • 高血圧や糖尿病など合併疾患の管理

心房細動による最大の合併症である脳梗塞を防ぐには、抗凝固薬を医師の指示どおりに継続することが最も重要です。心房細動の再発や合併症を早期に発見するため、定期的に通院して心電図検査やホルター心電図を行い、脈の状態をチェックしましょう。さらに、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの合併疾患の管理を徹底することで、全身の血管リスクを低減し、結果的に心房細動のコントロールにも役立ちます。


心房細動の治療における注意点

  • 抗凝固薬は勝手に中断しない
  • 抗不整脈薬やレートコントロール薬の副作用、相互作用への注意
  • 運動や生活習慣改善は主治医と相談しながら行う

抗凝固薬を自己判断でやめてしまうと、脳梗塞のリスクが一気に高くなる可能性があります。特にDOACは服用を中断した直後に血栓リスクが反跳的に高まるというデータも報告されています(※施設や研究により異なります)。また、抗不整脈薬やレートコントロール薬は、心拍を抑える作用のため過度に脈拍が低下したり、めまいや倦怠感が強くなることがあります。他の薬やサプリメントとの相互作用にも注意が必要です。

運動療法については、心不全症状が進んでいる場合や、狭心症など合併症がある場合は安全面に配慮し、運動強度を適切に設定する必要があります。必ず主治医や専門医に相談のうえ、無理のない範囲で継続することが大切です。


症状がない場合でも受診すべき理由

  • 無症状でも脳梗塞リスクは変わらない
  • 早期診断・早期治療が重症化を防ぐ
  • 定期的な検査で血栓の形成や心機能低下を早期発見

心房細動は症状が明確でなくても、脳梗塞や心不全といった重大な合併症を引き起こす恐れがあります。特に動悸などを感じていなくても、不規則な脈が持続している「持続性心房細動」のケースもあるため、定期的に脈を測り、違和感があれば早めに医療機関を受診することが重要です。


心房細動と他の不整脈との違い

  • 心房細動:P波が消失し、極めて不規則な心房活動
  • 心室性期外収縮など:心室からの早期興奮が中心
  • 発作性上室性頻拍:突然始まって突然終わる規則正しい頻拍

不整脈とひとくちに言っても、その種類は非常に多岐にわたります。期外収縮のように一瞬だけ早い拍動が紛れ込む程度のものから、命にかかわる心室細動や心室頻拍のように重篤なものまでさまざまです。心房細動は「最も一般的な持続性の不整脈」と言われ、特に高齢者ではよく見られます。診断には心電図が不可欠で、治療方針や再発予防策も他の不整脈とは異なる点が多々あります。


心房細動のタイプ(発作性・持続性・永久性)

  • 発作性:自然に正常リズムに戻ることがある
  • 持続性:治療なしには正常リズムに戻らない
  • 永久性:治療を行っても正常リズムに戻すことを断念した状態

心房細動には大きく3つのタイプがあり、経過や治療方針が異なります。発作性心房細動では、発作的に心房細動が起きるものの、数分~数日で自然に正常リズムへ復帰するのが特徴です。持続性は、治療による電気的除細動や薬物投与を行わない限り正常リズムに戻りません。永久性(慢性心房細動とも呼ばれる)になると、どれだけ治療しても正常リズムを維持できない、あるいは維持をあきらめてレートコントロールのみで管理するケースとなります。


自己管理のポイント

  • 血圧管理、体重管理
  • 禁煙・節酒、適度な有酸素運動
  • 生活リズム(十分な睡眠、過度なストレス回避)
  • 他の疾患(甲状腺異常、睡眠時無呼吸症候群など)の治療も並行して進める

心房細動の安定したコントロールのためには、患者さん本人が生活習慣を意識して自己管理に取り組むことが不可欠です。肥満や高血圧を放置すると心臓への負荷は大きくなり、心房細動の再発リスクも上昇します。特に睡眠時無呼吸症候群がある場合、酸素不足が心臓に大きな負担をかけるため、疑いがあれば専門の検査を受け、必要に応じた治療(CPAP療法など)を行うことが推奨されます。

また、アルコール摂取は「ホリデーハート症候群」と呼ばれるように、過度の飲酒が心房細動を誘発する例も報告されているため、日常的に多量のアルコールを飲む習慣がある方は注意が必要です。


まとめ

  • 心房細動は最も頻度の高い不整脈の一つで、脳梗塞リスクを大幅に高める要因となる。
  • 症状がなくても合併症のリスクは同様に高いため、早期発見・早期治療が重要。
  • 診断の中心は心電図検査だが、発作性の場合はホルター心電図など長時間の記録が必要になることがある。
  • 心エコー検査(特に経食道心エコー)は左心耳の血栓評価に欠かせず、治療方針を決定するために非常に重要。
  • 治療には薬物療法(抗不整脈薬・抗凝固薬など)とカテーテルアブレーションを中心とする非薬物療法がある。
  • 再発防止には生活習慣の改善が不可欠で、高血圧や糖尿病の管理、禁煙・節酒、適度な運動が推奨される。
  • 抗凝固薬は自己判断で中断せず、定期的な通院と検査でリスクを管理することが重要。

心房細動は加齢や生活習慣病などさまざまな要因が複雑に絡み合って発症しやすい不整脈です。特に高齢化社会では患者数が増加傾向にあるとされ、早期発見と適切な管理が社会的にも重要視されています。心房細動を放置すると、脳梗塞や心不全といった生命予後を左右する合併症のリスクが高まりますが、近年はカテーテルアブレーション技術の進歩や新たな抗凝固薬の普及などにより、より良い治療成績と安全性が期待できるようになっています。

一方で、「無症状でも危険が潜んでいる」点や、「薬の服用を怠ると一気にリスクが高まる」点などがあり、患者さん自身の理解と自己管理が欠かせません。血圧や糖尿病のコントロール、禁煙、節酒、適度な運動といった生活習慣の改善が治療効果を左右します。専門医との連携のもと、定期的な通院・検査を続けることが、合併症の予防と心房細動との上手な付き合い方につながるでしょう。