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その所見、大丈夫?心エコー検査で見つかる「正常範囲だけど注意が必要」なこと

その所見、大丈夫?心エコー検査で見つかる「正常範囲だけど注意が必要」なこと

心エコー検査は、心臓の動きや構造をリアルタイムで観察できる非常に優れた検査法です。放射線を使わず身体に負担も少ないため、人間ドックや健康診断でも広く行われています。

しかし近年、検査結果の中には「数値上は正常範囲」なのに、実は将来的な心疾患リスクを示す“予兆”が隠れているケースがあると注目されています。たとえば、軽度の弁逆流や左室のわずかな肥大などは、今すぐ治療が必要なほどではないものの、放置すれば数年後に重大な病気に発展することもあります。

「異常なし」と言われても油断は禁物なのです。この記事では、心エコー検査の概要や種類ごとの特徴に加え、「正常範囲だけど注意が必要な所見」について、医師の視点からわかりやすく解説していきます。

はじめに

  • 心エコー検査(心臓超音波検査)は、心疾患を非侵襲的に評価できる非常に有用な検査手段。
  • 「異常なし」と言われても、実際には“正常範囲内”に潜むリスクを見逃している場合もある。
  • 本記事では、心エコーの検査概要、種類ごとの特徴、「グレーゾーン」とされる要注意所見について詳しく解説。

心エコー検査とは

  • 超音波を使って、心臓の形状や動き、血流の状態をリアルタイムで観察する検査。
  • 心筋の厚さや収縮・拡張の動き、弁の開閉や逆流などが観察可能。
  • 被ばくがなく安全で、妊婦や高齢者にも繰り返し使える検査。

心エコーは、心疾患の有無やその程度を「視覚的・定量的」に評価できる検査で、診断から治療評価、経過観察まで幅広く活用されています。

特に、以下のような用途に使われます。

  • 動悸・息切れ・胸痛などの原因検索
  • 心雑音の精査
  • 心不全の重症度評価
  • 術前の心機能チェック

たとえば、「左室駆出率(LVEF)」は心臓が送り出す血液の割合を示し、正常は50~70%とされていますが、LVEFが60%でも局所の動きが悪ければ、心筋梗塞の既往や虚血性心筋障害の兆候かもしれません。


心エコー検査でわかる主な疾患と異常

  • 心不全
  • 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
  • 弁膜症(大動脈弁狭窄、僧帽弁閉鎖不全など)
  • 心筋症(肥大型、拡張型、拘束型)
  • 先天性心疾患(心房中隔欠損など)

心エコーで得られる情報は非常に多岐にわたり、心疾患の早期診断だけでなく、予防医療にも役立ちます。

たとえば、弁膜症では、逆流の範囲や流速などがドプラーで定量化され、弁置換や弁形成術の適応を判断する上で不可欠です。また、拡張型心筋症では、心腔の拡大とともに壁の動きの鈍さが観察されます。心房細動では、心房の拡大や、左房内血栓のリスク評価のために経食道心エコー(TEE)も必要になることがあります。


よくある“見逃しがちな”所見

  • 軽度の弁逆流
  • 局所壁運動異常
  • 左房・左室のわずかな拡大
  • 拡張機能障害の予兆
  • 僧帽弁逸脱(MVP)

心エコーでは、「数値的には基準内」であっても、画像や動きに異常が見られることがあります。こうした所見は、将来的なリスクを予測する“予兆”となり得るため、軽視してはいけません。

  • 軽度の弁逆流
    • 50歳以上の約30%に認められるが、進行して中等度以上になるケースもある(日本心臓病学会ガイドライン)。
  • 左室肥大
    • 高血圧由来の変化が多く、放置すれば心不全や不整脈の温床になる。
  • 拡張障害(拡張能低下)
    • 心臓が「膨らみにくくなる」変化。収縮は正常でも、血液をうまく受け入れられなくなっている状態で、高齢者や糖尿病患者に多く見られます。
  • 僧帽弁逸脱症(MVP)
    • 軽度でも、僧帽弁逆流が進行する例や、まれに突然死と関連する不整脈が出現することも報告されています。

心エコー検査の種類と特徴

1. 経胸壁心エコー(TTE)

  • 一般的な心エコー検査。胸にプローブを当てるだけで、心臓全体を観察可能。
  • 日常診療、人間ドックで最も広く使われている。

被験者の負担が少なく、検査時間も15〜30分と短時間。多くの医療施設で標準装備されており、心筋の動き・弁の状態・心腔の大きさ・心膜液の有無など、多角的に評価可能です。


2. 経食道心エコー(TEE)

  • 内視鏡のように、超音波プローブを食道から心臓に近づけて観察。
  • 弁の詳細構造や、左房内血栓、感染性心内膜炎などの診断に最適。

TEEは心臓の後方(食道側)から観察するため、経胸壁エコーよりも高精細な画像が得られます。たとえば、大動脈弁や僧帽弁の植込み型人工弁の状態や、心内の小さな腫瘤(血栓・腫瘍)を描出できます。やや侵襲的で、検査前に絶食と鎮静が必要です。


3. ストレス心エコー(運動・薬剤負荷)

  • 運動または薬剤(ドブタミンなど)で心臓に負荷をかけ、虚血の有無を判定。
  • 冠動脈疾患(狭心症など)の検出に有効。

通常時は問題なくても、労作時に症状が出る心疾患(労作性狭心症など)は、負荷時の心エコーでのみ判明する場合があります。心筋の動きの変化(壁運動異常)を観察することで、虚血の部位や重症度を推定可能です。


4. ドプラーエコー(カラー・連続波)

  • 血流の速さ・方向を視覚化する手法。逆流や狭窄の定量に必須。
  • 弁膜症の診断・重症度評価、肺高血圧の推定に用いられる。

カラー表示で血流の乱れや逆流ジェットを見られ、連続波ドプラーでは血流速度を数値化できます。たとえば、大動脈弁狭窄では、血流速度4.0m/s以上が重症の目安とされ、弁置換術の適応を判断する基準になります。


まとめ

  • 心エコーは「非侵襲・安全・詳細情報が得られる」優秀な検査
  • 数値が正常でも、画像的な異常や軽度の逆流・壁運動異常が潜んでいることがある
  • 経胸壁、経食道、ストレス、ドプラーなどの種類で得られる情報は異なる
  • 「正常範囲だけど注意が必要」な所見を見逃さないことが、将来の心疾患予防に直結する
  • 結果を一度で終わらせず、生活指導と定期フォローが重要