
高血圧と運動
50代になると「血圧が高め」と指摘される方が増えてきます。今まで運動習慣がなかった方も、「運動で高血圧を改善できるなら始めてみようかな」とお考えではないでしょうか。
高血圧とは何か、その原因と生活習慣との関係、運動が血圧に与える効果、運動を始める際の注意点について分かりやすく解説します。さらに「ウォーキングでも効果はあるの?」「運動が逆に危険なことは?」といった疑問にもQ&A形式でお答えし、最後に運動を始める前の受診や当院でのサポートについてご案内します。
高血圧とは(定義・基準値・原因・生活習慣との関係)
一般に血圧が慢性的に正常より高い状態を「高血圧」と呼びます。診察室で測定した血圧が収縮期(上の血圧)140mmHg以上、または拡張期(下の血圧)90mmHg以上の場合、高血圧と定義されます。自宅で測る家庭血圧では基準が少し厳しくなり、135/85mmHg以上が高血圧の目安です。つまり、上が140、下が90を超えると高血圧と判断されるわけです。
- 高血圧の基準値
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血圧には正常値と高血圧の中間の「高値(こうち)血圧」と呼ばれる段階があります。正常血圧はおおむね120/80mmHg未満で、高血圧は140/90mmHg以上です。その間の範囲(収縮期120〜139または拡張期80〜89)は「正常高値血圧」や「高値血圧」と分類されます。このように血圧は連続的な値で、少し高めの段階から将来的なリスクが高まるため注意が必要です。
- 高血圧の原因
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高血圧の90%は明確な原因が特定できない「本態性高血圧」で、遺伝的要因に加え、日々の生活習慣(塩分の多い食事、肥満、アルコール過多、睡眠不足、ストレス、運動不足など)が大きく影響するとされています。残り約10%は腎臓の病気やホルモンの異常など原因のある「二次性高血圧」です。
ただ、多くの方の高血圧は生活習慣と深く関係しており、特に塩分のとりすぎ・運動不足・喫煙・ストレスといった習慣が高血圧の要因として密接に関連しています。
実際、日本では約3,450万人もの人が高血圧と推計され(男性の約30%、女性の約25%に該当)、まさに国民病といえる状況です。この背景には食生活の乱れや運動不足など現代人の生活習慣が大きく影響していると考えられます。
運動の効果(血圧を下げるメカニズム、有酸素運動のメリット)
- 運動が血圧を下げる仕組み
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継続的な運動は血管の機能を改善し、血液が流れやすい状態を作ることで血圧を下げる効果があります。特に有酸素運動(後述)を習慣的に行うと、安静時の血圧が徐々に低下していきます。
運動により心臓のポンプ機能が強化されると、一回の拍出で十分な血液を送り出せるようになり、結果的に心臓が少ない力で血液を巡らせることができるようになります。
また、運動によって血管が拡張しやすくなるホルモンが分泌されたり、血管の弾力性(柔軟性)が増すことも報告されています。これらの効果により、運動習慣のない人が運動を始めると長期的に血圧が下がりやすくなるのです。
- どのくらい下がるの?
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運動による降圧効果の大きさは個人差がありますが、さまざまな研究により平均的な効果が示されています。
日本高血圧学会のガイドラインでは、有酸素運動を30〜60分間継続する運動療法によって収縮期血圧が平均4mmHg以上、拡張期血圧が2mmHg以上低下したと報告されています。
さらに、高血圧の患者さんでは収縮期血圧が約8mmHg、拡張期血圧が約5mmHgも下がったとのデータもあり、運動習慣の無い方にとっては大きな改善が期待できます。たとえ数mmHgの低下でも、血圧が下がることで将来の脳卒中や心臓病のリスクを減らせるため、決して軽視できません。
高血圧の方に特におすすめなのが有酸素運動です。
有酸素運動とは、ウォーキングや軽いジョギング、サイクリング、水泳、エアロビクスなど酸素をしっかり取り込みながらリズミカルに体を動かす運動のことです。激しい無酸素運動(短距離走や重い重量を扱う筋トレなど)に比べて血管への負担が少なく、運動中の血圧上昇も緩やかなため、安全に続けやすい利点があります。
たとえばウォーキングは日常生活に取り入れやすい有酸素運動で、1日に8,000歩以上歩くことで血圧を下げる効果が期待できるとされています。急に激しい運動をする必要はなく、まずはゆっくりしたペースの散歩や家の周りを歩くことから始めても十分効果があります。継続することで徐々に血圧が下がり、動脈硬化の予防にもつながります。
- 運動がもたらすその他の健康効果
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適度な運動習慣は血圧以外にも多くのメリットがあります。例えば、運動によりエネルギー消費が増えることで減量効果が期待でき、体重を適正に保つことで血圧コントロールがさらに改善します。
また、脂質異常症(高コレステロール)や糖尿病の予防にも運動は有効であり、筋力の維持(ロコモティブシンドロームやサルコペニア予防)、関節の柔軟性向上、心肺持久力アップ、ストレス解消によるメンタルヘルスの改善、認知症予防など全身の健康に良い影響を与えます。つまり、運動は高血圧という一つの症状を改善するだけでなく、生活習慣病全般の予防・改善やQOL(生活の質)の向上につながる総合的な健康法と言えます。
注意点(運動の始め方・頻度・避けるべき運動・運動前の確認事項)
高血圧の方が運動を始める際には、効果を高め安全に続けるためにいくつか注意すべきポイントがあります。以下に、運動を始めるときのコツや避けたほうがよいことをまとめます。
- 無理のない強度から始める
- 運動習慣のない方は、いきなり長時間や高強度の運動をするのではなく、軽めの運動から徐々に慣らしていきましょう。例えば最初はゆっくり20分程度のウォーキングからスタートし、慣れてきたら少しずつ時間やペースを上げていくのがおすすめです。
- 運動の頻度と時間
- 高血圧改善のためにはできれば毎日30分以上の有酸素運動を行うことが理想です。
- 準備運動と水分補給
- 急な運動は身体に負担をかけるため、運動前後には十分な準備運動(ウォーミングアップ・クールダウン)を行いましょう。ストレッチや軽い体操で筋肉と血管をほぐしてから運動を始めると、安全に運動強度を上げられます。
- 適度な強度を守る
- 急な運動は身体に負担をかけるため、運動前後には十分な準備運動(ウォーミングアップ・クールダウン)を行いましょう。ストレッチや軽い体操で筋肉と血管をほぐしてから運動を始めると、安全に運動強度を上げられます。
- 避けるべき運動
- いきなり激しい無酸素運動や、息を止めて力むような運動(重い重量の筋トレや息こらえする動作)は血圧を急上昇させてしまう恐れがあります。
- 筋トレは適度に並行して
- 高血圧の方向けの運動というと有酸素運動が中心になりますが、軽めの筋力トレーニングを並行して行うことも効果的です。
- 運動前の健康チェック
- 運動を開始する前に医師の診察を受けておくことをおすすめします。特に血圧が非常に高い方(収縮期180mmHg以上・拡張期110mmHg以上のⅢ度高血圧)や、心臓病・腎臓病など他の疾患をお持ちの方は、すぐに運動を始める前に医師と相談が必要です。
よくある質問
ご相談ください
当院(川崎グランハートクリニック)は内科・循環器内科の専門クリニックとして、高血圧の診療と生活習慣改善の支援に力を入れています。医師による診察の中で、日常生活における運動の取り入れ方や食事の工夫など、患者さま一人ひとりに合わせたアドバイスを行っています。
血圧手帳のつけ方や家庭での血圧測定のポイント、運動習慣を継続するコツなども含めて丁寧にサポートいたします。必要に応じて降圧薬の処方・調整を行いながら、生活習慣の改善によって薬に頼りすぎない治療を目指します。「運動療法に興味はあるけど自分にできるか不安」という方も、ぜひ一度ご相談ください。当院スタッフが伴走し、無理のない範囲での運動プラン作りをお手伝いいたします。
